=院長日誌補足=
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2002年9月号

「歯の常識・非常識」

2002/09/02 (月)

神経を取ると
 最近、日誌を隔日にしたにも関わらず、アクセス数が伸びている。
 特に一般の検索サイトや「歯科系の検索サイト」から訪問されてくる方が多い。

 そこで、今月はちょくちょく耳にする患者さんのギモンに関して、僕の見解を綴っていこうと思っている。

 例えば、「歯の神経を取ると、歯がもろくなるって聞くけど本当ですか?」ってなギモンである。
 ここに書くことは僕の私見である。(当然のことではあるが・・・)

 さて、地面に生えた木は生きている。もちろん木にも寿命があり、中が空洞になったり、病気に勝てずに立ち枯れてしまうこともある。
 しかし、伐採されてしかるべき保存方法をとられさえすれば千年以上でもよい状態を保つことは「奈良や京都の木造建造物」を見ても立証済みである。

 歯も同じである。
 残念ながら虫歯になってしまい、神経に達しようかという虫歯は放っておくとどんどん悪化の一途をたどり、いつかは根っこだけとなり、抜かざるを得ない状況に陥ってしまう。

 それを食い止めるのが、神経の治療なのである。

 「神経を取ると歯はもろくなる」ということはない。もちろんちゃんとキッチリと治療なされた場合に限るが。
 それ以前に「神経に達するような深い虫歯に陥っている」ということ自体、歯がもろくなっている、ということはありえるが・・・

 ただし・・・この続きはまた明後日書く。
2002/09/04 (水)

ただし・・・
 前回の続きである。

 歯の神経を取ることは、それ自体「歯の寿命を縮めるモノ」ではない、ということはほぼ間違いないことなのではあるが、誤解のないようにしてほしい。

 どうしても神経を取らなければならないような歯は、それ自体、歯が健康である状態よりは「強度的には劣っている」ということがありえる。

 だから、その歯が全く虫歯になっていないという状態よりは寿命は確かに短くなるかも知れない。

 もう一点気をつけて欲しいことは・・・
 歯の神経を取ってしまうと、歯自体は一切の外界からのいろいろな信号をキャッチしなくなってしまう、ということがあるのだ。

 つまり・・・もし、歯に神経があれば、虫歯が進行すると「凍みる」とか「噛んで痛い」ということが当然起こり得るわけであるが、神経を取ってしまうと、そういう外界からの信号をキャッチしなくなるため、仮に再度虫歯に冒されても気付かない、ということがありえるのである。

 一度、虫歯になった歯は、治療をすれば「二度と虫歯にならない」ということはありえないことなのであるから・・・
 つまり、神経を取った歯がある場合、寿命を延ばすためには定期的な検診が必須であるということである。
2002/09/06 (金)

フッ素の効果
 虫歯予防に効果があるとされている「フッ素」。果たして効果の程は?・・・

 確かに、フッ素が歯に取り込まれると歯の耐酸性が増して、虫歯にはなりづらくなる。
 フッ素を歯に応用させるのは大きく分けて2種類の手段がある。

 塗るのと、飲むことである。
 僕は塗るのはよほど頻回でないとあまり意味がないと思ってはいる。

 一番効果があるだろうと思うのは「水道水への添加」である。
 元々フッ素は天然にも存在するし、そもそもフッ素の効用が認められたのは「フッ素濃度の高い飲料水を飲んでいる地区の住民に虫歯が少ない」ということからである。

 欧米では水道水にフッ素を添加し、劇的に虫歯予防に貢献している地区もあるらしい。

 ところが、じゃあフッ素の水道水添加を手放しで認めたらいいじゃないか!っというのもまた乱暴のハナシなのである。

 一点は「虫歯予防のため」だけに、公共の水道に薬物を添加していいものか?という問題。あたしゃあフッ素入りの水道水なんか飲みたくないよ!ってヒトまで強制的にフッ素入りの水道水を飲まされることになってしまう。

 もう一点の問題点は「過剰摂取により斑状歯が出たり、骨粗鬆症になったりする可能性がある」ということらしい。

 当然、本来カルシウムという元素があるべきところにフッ素の元素が置き換わって存在することになってしまうことからくる弊害というのがありえるのだろう。

 実はここで論じるまでもなく、フッ素というのは歯科界でも何度も大論争になっていることなのである。
2002/09/09 (月)

恐るべき誤解
 3歳児検診などに行くと、お母さんなどから次のような質問を受けることが多い。
 「フッ素コーティングすると虫歯にならなくなるんですか?」と・・・

 二重に誤解されているようである。
 フッ素というものをまるでフライパンのフッ素コーティングと同じように捉えているのが一点と、またフッ素を塗布すると金輪際虫歯にはならなくなると勘違いしているようである。

 フッ素を作用させると、前回書いたように、歯の表面のカルシウムがフッ素の化合物に置き換わり「脱灰しずらくなる」だけであり、コーティングするわけでも虫歯にならなくなるワケでもない。

 しかも、実際脱灰しかかったところに作用するモノであり、ニ度や三度のフッ素塗布では僕はほとんど効果はないと思っている。

 僕は何ヶ月かに一回フッ素を歯に塗布するのはほとんど気休めに過ぎないと思ってすらいる。
 それでも、何らかの効果はあると思っている。

 第一に「フッ素を希望します」って歯医者の門をくぐること自体に意義がある。それ自体、「子供の歯に虫歯をこさえたくない」という意思表示の現われなのであるから。
 もう一点、数ヶ月に一度でもお口の中を見せていただければ、お口の中の状態や初期の虫歯などの発見に繋がる。

 僕はフッ素反対派でもフッ素推進派でもない。(水道水への添加はやめてもらいたいが)

 フッ素でもキシリトールでもなんでもいい。そういうアイテムを通じて「みんなの口の中の健康状態に対しての関心」が高まってくれればそれでいいと思っている。
2002/09/13 (金)

もう一つのフッ素
 (前回分、一日お休みしてしまい、ごめんなさい)

 フッ素を含む治療用の薬剤に「サホライド」というのがある。
 ただし、通常予防で用いるいわゆるフッ素とは使い方も目的も全然異なる。

 サホライドは軽度の虫歯に塗り、そして成分に銀が入っているため、最初は透明であるが、すぐに酸化して真っ黒になる。

 どうしても削ったり詰めたりするということが困難な乳幼児の初期の虫歯に、進行止めとして用いることがある。

 そして、これは進行止めとしてはかなり好結果が期待できるのである。
 ただ、見かけは思いっきり黒くなる。(虫歯の部分だけではあるが)

 もちろん黒くなった部分は、子供が成長して歯を削ったり詰めたりということが安全にできるようになれば、削って白い詰め物をするなどの治療は可能である。

 1歳や2歳で虫歯ができてしまったお子さんをお母さんが連れてこられる・・・
 「進行止めの薬を塗った方がいいです。ただし、虫の部分は黒くなります」と説明するとお母さんは一瞬考えてしまうようである。
 ちょっと考えさせて下さいとおっしゃって、帰宅し、そのまんま来なくなってしまう方もいる・・・

 確かにそうだろう。
 虫歯の色はやや黒っぽいとはいえ、真っ黒ではない。
 それをいくら進行が止まるとはいえ、真っ黒になりますと説明されたらイヤになるだろうことは想像に難くない。
 しかし、虫歯が更に進行してしまうよりはまだいいのだが・・・
2002/09/16 (月)

乳歯をブツけたら
 夕べ遅く、親戚から電話があった。
 2歳の子供が歯をぶつけ、少し歯茎にめりこんでいるというのだ。

 グラついてはいないらしい。周りの歯茎から出血があったがもう止まっているとのこと。

 実はメールで相談を受けていたときも、この手の質問は大変多かった。
 乳歯の前歯をブツけたがどうしたものだろうか?という主旨である。

 乳歯をブツけたら、神経が死んでしまう可能性が高い。まあ、永久歯でもそうだが・・・
 神経は弾力があり、ちょっとやそっとでは切れないのであるが、思い切り歯をブツけると、歯の根の尖端で切れてしまうことがある。
 しかもくっついたり、再生するということが起こらない。

 神経が死ぬと・・・運がよくても悪くても歯は変色する。個人差はあるが、やや黒っぽくなるだけの場合もあるし、見た目にもかなり黒く変色してしまう場合もある。

 歯をぶつけただけではなく、虫歯などで神経を取った場合も然りである。

 でも、大抵の場合、炎症が起こることはないようである。
 なぜなら、細菌にヤラれて神経が死んでしまったわけではないからである。変色しただけなら根の治療は必要ない。経過を見ればいいだけである。

 もちろん血流に乗って細菌がやってきて根の先で炎症を起こしてしまう場合もある。そうなると痛みや腫れなどの症状が出るから、そうなってからでも根の治療に手をつけるのは遅くはないと思っている。
 (もちろん個々の歯医者さんの考え方にもよるが・・・)
2002/09/18 (水)

続き
 乳歯にせよ永久歯にせよ、ブツけてグラグラしていたら放置せず歯科医院を受診した方がいい。

 歯が折れているか、歯が脱臼しているか、骨が折れている可能性がある。
 いずれにせよ、何らかの固定処置を行わないと、後々歯がだめになる可能性がある。

 ブツけて歯が完全に抜け落ちてしまった場合もあきらめないで欲しい。
 抜け落ちた歯は水道水で汚れを落とし、牛乳や生理食塩水などに浸し、なるべく早く歯医者に持っていくとよい。

 再植といって、抜けた歯を元の穴に納め、接着剤などで隣近所の歯に固定しておくと、元通りくっつく可能性があるからである。もちろんダメな場合もあるが・・・
 神経を治療したあと再植することもあるし、くっつけた後で神経の治療をする場合もある。

 ただし、歯槽膿漏で元々グラグラだった歯が抜け落ちた場合は残念ながらだめである。
2002/09/20 (金)

親知らず
 親知らずは抜いた方がいいのか?抜かない方がいいのか?
 たまに聞かれる質問である。

 人類が柔らかい食べ物を好み、顎の運動がおろそかになったため、顎の大きさがどんどん小さくなっている。最近では小顔ブームとかで、顔が小さく顎がほっそりしている方が持てはやされているらしい。

 顎の骨が小さくなると、親知らずがちゃんと生えてこれるスペースはなくなる。
 顎の骨の中に埋まったままの親知らず、また骨の中で水平に埋まったままの親知らずはかなりの高い確率で見受ける。

 完全に埋まっている場合はほとんど問題はない。もちろん絶対に炎症を起こさないという保証はないが・・・

 一番問題になるのは、「ちょっとだけ顔を覗かせている親知らず」である。
 顔を覗かせている部分から細菌が歯茎の内部に入り、炎症を起こしやすいのである。また歯ブラシも当てずらいので虫歯になってしまう確率も高い。

 ほとんど埋まっている歯の虫歯の治療はかなり困難である。

 一度でも炎症を起こした親知らず(正確には周りの歯茎)は再度炎症を起こす確率が高くなる。炎症癖がつくからである。
 また一度虫歯になると、どんどん中で進行する。

 こうなってしまった場合、残念ながら親知らずは抜いてしまった方が後々楽である。

 逆に通常に生えて、そして上下で噛み合っている親知らずで、かつ無理なくブラッシングできる環境にあれば、別段無理に抜く必要はない。
2002/09/23 (月)

歯磨き
 一ヶ月ほど前だったであろうか?・・・
 テレビの番組で某歯科大学の教授も出て、一風変わったことを力説していた。

 憶えている要旨は次の通り。
・食後すぐに歯を磨くのはよくない。
・食事を摂ると唾液が分泌され、酸性に傾いた口の中の環境を中和してくれるからである。
・僕なんか寝る前に大福餅を食べて歯磨きせずにねる。(大学教授の弁)

 まあ、他にも審美歯科とか信頼の置ける歯医者は看板が小さいなどいろいろな話題が上っていたが正確には憶えていない。

 さて、僕も最近、徹底的なプラークコントロールということが本当に必要なんだろうか?と感じている一人ではある。

 折に触れてワケは書いてきたが・・・一つは人間、どだい徹底的なプラークコントロールは不可能なのである。僕も含めて、毎回の歯磨きで全ての歯の面を完璧にプラークを落としきっている人は皆無なはずである。
 いや、最近流行りのPMTCだって器具が行き届かない箇所があるはずである。(PMTC:歯医者で特殊な器具などを使って徹底的に歯面清掃すること)

 もし、プラークが残っていて、それが虫歯の原因であるならば、全ての人がたちどころにプラークのついていた部分が虫歯になるはずであるが、そうはなっていない。

 酸性の中和?それもあるかも知れないが、ちょっと怪しい。
 歯と歯の間の虫歯が片方の歯だけにあり、もう片方の歯は全く無傷ということがままあるのである。

 片方の歯だけ、酸性が中和され、片方は中和されずに虫歯になったなどということはありえないハズであるのだ。

 僕は本当の虫歯の原因はまだまだ判っていないのではないかと思っている。
2002/09/25 (水)

抜歯の必要性
 よく歯医者の善し悪しの判断基準となるのが、「なるべく歯を抜かない」ということらしい。これはある意味あたっているし、まかり間違えば大きな危険性をはらんでいる。

 抜かなくても済む歯は抜かず、抜く必要がある歯はなるべく早く抜いた方が得策なのである。要はそこの見極めの問題であろう・・・

 例えば、歯の根の先まで及ぶ歯周炎は放っておくとどんどん骨が吸収し、周りに歯まで危険を及ぼす。骨が吸収してしまうと、ブリッジや入れ歯を入れる際にも支障が出る場合もある。

 またひどくグラついたり、痛くて噛めないという歯を無理して残しておいては口の中の環境自体にも影響する。

 先日いらした患者さん、歯が数本しか残っていない。しかもほとんどグラグラ。
 その歯に金属をかけ、入れ歯が入っている。当然入れ歯も不安定でグラグラ、歯が痛くてモノが噛めないという。

 「ああ、入れ歯いれてかなりの年数が経過したんですね?」とたずねると、ごく最近入れ歯を入れてもらった、と仰る。
 歯医者に「グラつく歯は抜いて欲しい」と懇願したが、抜いてくれず、そのままの状態で入れ歯を作っていれられた、そうである。

 僕は比較的安定している一本を残してグラつく歯を全て抜歯させてもらった。
 そして早急に入れ歯を作っていれた。微動だにしない入れ歯ができ、患者さんも喜んでくれている。

 もちろんケース・バイ・ケースである。抜く必要のない歯は抜く必要はない。
 しかし、時には抜歯した方がよりよい結果が得られるということを理解しておいていただきたいのである。
2002/09/29 (日)

おわび
 実は昨年の11月からピアノ教室に通っていたんですが、昨日はその発表会でした。
 そんでもって、27日は日誌更新をお休みしてしまったことをお詫びいたします。

 心臓が喉から飛び出るくらい緊張しました・・・
 でも、大きなミスもなく、概ねちゃんと弾くことができました。
2002/09/30 (月)

虫歯は撲滅できるか?
 虫歯の原因は、僕はハッキリとは判らないと思っている。
 もちろん虫歯菌の関与、歯の性質、食生活、唾液の性状などいろいろな要素が関わっていることは確かである。

 最近、興味深い現象を目にした。
 生えて一ヶ月も経たない大臼歯の、しかもまだ完全に表に出ていない歯の面にある虫歯である。つまり、歯茎の下で虫歯になっているのである。

 もしかしたら、歯は完全に口の中に出てしまう以前に虫歯の第一歩が始まっているのではないかと伺わせられる現象である。

 その子のお母さんともしみじみ話したのであるが、歯が口の中に出てくる以前に虫歯になっていたとすると、予防のしようがないですよね〜
 などとその時は話したものである・・・

 果たして本当かどうかは判らないが、歯が完全に出てくる以前に「虫歯の芽」ができていれば、虫歯を完全に予防するということはほとんど困難に思われる。

 虫歯はなぜできるのか?今後も僕なりに追及していく・・・まあ、限度はあろうが・・・