=院長日誌補足=
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2002年5月号
「顎関節症について」
2002/05/03 (金)

ちょっとお休み〜
 更新滞ってごめんなさい・・・
 連休とレセプトが重なり・・・休みたいけど休めない悲しさ。

 ああ・・・先月末から来ている親知らずの炎症ですごく痛い患者さんは、大丈夫だろうか?・・・

 今日の札幌はとってもいい天気です。
 外に遊びに行きたいよ〜〜〜
2002/05/05 (日)

相変わらず・・・
 昨日から今日にかけてキャンプにでかけておりました。
 そんなわけでレセプトもまだ半ば・・・
 本格的な「5月号」は連休明けの予定。

 ぎゃ〜〜〜!なんだか知らないけど、「ヤフー」の名を語ったタイトルのウィルスメールが舞い込んだ〜幸いウィルスチェッカーにひっかかって事なきを得ましたが、「これはなんだろう」と添付ファイルをダブルクリックしてしまいました。

 この新手のウィルスは添付ファイルの容量が大きいのが特徴のようですね。

 もっともウィルスが作動したとしても、アウトルックエクスプレス系統のメーラーを使っていませんので、他に被害が拡大することはないんですが・・・

 しかし、どんなに用心していてもダブルクリックしてしまう内容ってあるんだなぁ・・・みなさんもお気をつけ下さい!
2002/05/08 (水)

まだ・・・
 実は5月は「顎関節症」にテーマを絞って書き綴ろうと思っていました。
 ただ、もう上旬も終わりそうなので、5月はこのまま雑記にして、6月に改めてきちんと書こうかな?とも思っています。

 閲覧される方も、「ぜひこのようなテーマで書いて欲しい」という内容がありましたら、掲示板なりメールでご意見いただけますと、嬉しいです。
2002/05/09 (木)

ようやく・・・
 顎関節症に関して、僕の知っていることを書こうと思う。

 とは言っても、恐らく「それを専門に追求している研究者」が現在どういったことを最新のトピックスにしているのか?を知らないので、あまり突っ込んだことは書けないかも知れない。

 また、自分自身特段に得意とするジャンルでもないので、もしかしたら自身の誤解に基づく記載などもしてしまうかも知れない・・・

 なるべく一般的に書こうとは思っているが・・・

 さて・・・顎関節症とはなんぞや?
 たまに、芸能人なんかも顎関節症にかかりました、などと言ったハナシを耳にするので、恐らく「聞いたこともない」疾患ではないと思う。

 明日は、顎の骨の構造から少し詳しく書いてみるつもりである。
2002/05/11 (土)

顎関節の仕組み
 顎関節自体は耳の穴の手前約1cmのところにある。
 そこに人差し指を当てて、口をゆっくり開いてみて欲しい。

 最初はあまり大きな動きをしないが、ある一定以上口を開けると、突起が触れ、そしてそれがやや前方へ移動するように感じるはずである。場合によっては、少し外側に出っ張るような感触もあるかも知れない。

 これが顎関節の特色である。
 最初の指一本分くらいの開口では顎関節は「蝶番(ちょうつがい・ちょうばん)」のような動きをする。
 そして、それ以上口を開けると、下あごの末端の突起は前方へスライドするのである。
 このスライドする運動を「滑走運動」と言う。

 上あごの細長い受け皿の上を、下あごの末端の突起が「滑る」と思っていただけると判りやすい。

 そして、その受け皿と突起の間には「関節円板」と呼ばれる、一種のクッションのような組織がある。
 このクッションのおかげで、下あごの動きがスムーズに、かつ、多少の過負荷にも耐えられる構造になっている。
2002/05/13 (月)

症状
 顎関節症の症状は程度に応じて様々である。

 初期の軽度のものは口を開閉すると耳の穴の少し前方がカクカクなるという程度である。
 それを病的と言えば、病的であるし、日常生活に支障がなければ別に放置しても構わない。

 立ったり座ったりする時に、膝が「カクン」と鳴る人が、同じようなことである。

 もう少し程度が重くなると、開閉に伴い顎関節に痛みが出る。
 痛くて指三本以上開けることができなくなると、要治療であろう。
 また、開閉時に痛い場合は放置しない方がいいだろう。

 指が一本程度しか開かないような場合は一般の歯科医院ではお手上げになる。
 これは、後日書く予定だが、「滑走運動」が全くできない状態であり、関節炎版が完全に固着している可能性がある。
2002/05/15 (水)

実態
 顎関節症になると、実際どのようなことが起こっているのであろうか?

 大抵の場合は上あごの受け皿と、下あごの突起の間にある「関節円板」と呼ばれる一種のクッションに何らかの異常が起こっていると言われている。

 ここが繊維化して硬くなったり、穴が開いたり、また上あごか下あごの骨に癒着すると、先日述べた「滑走運動」がスムースに行えなくなる。

 (他にも骨が変形するとか、外傷性によるものなどがあるが一般的ではない)

 実は僕もたまーに顎関節症に陥る。数年に一回だが・・・

 朝起きる。朝食を食べようとして口を開ける。
 すると、顎関節にバリッと音がして激烈に痛む。
 「イテテテ!」と言って口を閉じ、少しずつ口を開け閉めすると、徐々に開くようになってくる。

 そして日中は何事もなく過ごすのだが、また翌朝忘れて口を開け、「イテテテ!」の繰り替えしが数日続く。

 原因は判っていた。
 そして、原因がなくなるとその後徐々に症状は消失し、何事もなかったかのような日々に戻るのである。

 原因についてはまた後日書く・・・
2002/05/17 (金)

原因
 従来、というより、以前は顎関節症の原因は噛み合せにあると考えられてきたようである。
 実際、十数年前、大学でもそのように教わった。

 と、言うより、十数年前はまだ顎関節症に関して研究途上の段階であったのかも知れない。

 いろいろな科が顎関節症の原因と治療に関してトライしていた。
 中でも補綴科といって、入れ歯や被せモノで噛み合せを回復させようとする「科」と口腔外科でさかんに治療が試みられていた。

 また噛み合せに原因があるからといって、矯正科などでも治療が試みられていたようである。

 僕が「顎関節症と噛み合せにあまり相関関係はない」というハナシを耳にしたのは卒後4〜5年が経過した時であった。
 大学で教わったこと、そしてその後研修してきた内容とあまりに違う話だったので、にわかには信じがたかった。

 しかし、2001年の2月6日に書いたWSDの原因同様、のちのち患者さんをじっくり診させていただくと、新しい説の方が納得いくことしきりだった。

 相関関係というのは「逆もまた真なり」でなければならないのに、顎関節症の原因に関しての従来の説ではあいまいだったのである。

 つまり、噛み合せが原因で顎関節症になる人も、確かにいたことはいたのであろうが、「噛み合せにたくさん悪い部分があっても顎関節症でない人」の方が圧倒的に多かったのである。

 これは「寒いと風邪をひく」とは言い切れないのと同じである。
 寒くても風邪をひかない人もいれば、暖かくても体調不良とウィルスの存在によって風邪をひく人もいる、ということと同じなのである。
2002/05/18 (土)

さらに原因
 実は、歯並びがきれいに揃っていて、噛み合せにまったく問題がない人にも顎関節症は発症する。

 かく言う僕も上下左右きれいな噛み合せで全て揃っている。

 顎関節症の一般的な原因はストレスである。・・・いや、ストレスらしい。

 人間、精神的な負荷がかかると、身体のどこかの筋肉を無意識に収縮させることがあるらしい。
 僕なんかは、肩凝りを起こしやすい。

 仕事中など、無意識に肩に力が入っていることが多い。
 また我ながら悲しいことに、寝ている最中にも肩に力を入れて寝ていることがあるようで、朝起きて肩凝りや頭痛がすることもある。

 これが顎の周りの口を開け閉めする筋肉で起こると、口の中や顎関節に、直接、間接的になんらかのダメージを与えてしまうのである。

 ダメージを受ける部分は人によって、様々である。

 歯にくる人もいる。根元のエナメル質が剥離してしまう。また、噛む面が磨り減ってしまう人もいる。

 歯茎にくる人もいる。歯を支える骨が弱かったり、細菌に対する抵抗力が弱かったりすると、歯茎の骨が溶けてしまう。

 そして、顎関節にくる人もいる。

 そうそう、もちろん今でも「顎関節症の最大の原因は噛み合せの不調和」って信じている歯医者さんも少なくない。大学でそう教え込まれたのだから。

 もちろんそれも原因になりうる。
 噛み合せの不調和が「ストレス」になっている場合である。
2002/05/21 (火)
ストレス
 以前、患者さんに「いろいろな疾患の原因はストレスです」ってなことをもっともらしく語っていたら、患者さんに逆ギレされたことがある。

 「先生!だって、現代社会はストレスだらけでしょ?そんなストレスが原因、ストレスが原因って言われたってどうすることもできないよ!」ってな具合であった。

 もっともである・・・

 しかし、何かの本で読んだことがある。
 ・・・現代人は生きていく上での大方のストレスからは開放されている。古代人を思い浮かべて欲しい。雨つゆをしのぐ住居もあるかないか、その日食べる食事もありつけるかどうか。衣服もままならない・・・
 そういった基本的に生きていく上でのストレスはないなずだ、と著してあった。

 そう、我々のほとんどは、雨つゆをしのげる構造の中に住み、衣服をまとい、そしてその日食べるモノに窮するということは滅多なことで起こりえない。
 もちろん猛獣にいつ襲われるかとびくびくしながら暮らすこともない。

 人間は本来備えているべき「生きていく上でのストレス」から開放された代わりに、精神的なストレスを背負い込んでしまったのである。
2002/05/22 (水)

直接の原因
 さて、ストレスにより何が起こるかというと、「噛み締め」「食いしばり」「歯軋り」などの現象を起こしてしまう。

 大抵は全く無意識である。また寝ている間などにも起こすことが多い。

 歯の根っこと骨との間には「歯根膜」という一種の薄いクッションが介在する。

 通常は、この歯根膜の受容器(感覚を感知する部分)が作用し、必要以上に噛みこまないようにできているのだが、何らかの原因で限界以上に噛みこみを続けると、様々な不具合が起こってくる。

 今回の顎関節も、必要以上の力が継続して加わると、当然何らかの異常が発生する。
 過日述べた「関節円板」という顎関節のクッションに損傷等が生じるのである。

 傷がついたり、繊維性に硬くなったり、肥厚したり、極端なケースでは穴が開くといわれている。

 そういう風になってしまえば、もう口を開け閉めするときに痛みが出て当然である。
2002/05/23 (木)

治療
 もっともポピュラーな治療法は「口の中にマウスピースをはめる」ということだろう。

 実は、この手法は「顎関節症が噛みあわせに異常がある」と盲信されていた時からファーストチョイスであった、というところが面白い。

 マウスピースをはめて、噛みあわせを補正すると顎関節の症状が緩和されるということは、以前から経験的に知られていたのであろう。
 だからこそ、ながきに渡って「顎関節症は噛みあわせの異常から発症する」と言われてきたのであろう・・・

 マウスピースはスプリントとかシーネとも呼ばれるが、主として上あごの歯にすっぽりと一種のプラスチックでできた入れ歯のようなモノをはめると思っていただけると判りやすいだろう。

 これをはめて口を閉じると上の歯、下の歯との間にスペースが生じる。同時に顎関節の部分にもスペースが生じる。
 これで関節のクッション「関節円板」を休ませることができるのである。

 つまり、無意識に噛みこんだとしても、一定以上は噛みこむことができず、顎関節の負担も減るというわけである。

 このマウスピースの調整は非常に微妙なものである。
 製作方法、あるいは調整法をまかり間違うと、逆に顎関節に負担がかかることもあるからである。

 他にも一種の筋肉の緊張を和らげる薬を使ったり、顎関節に外側から赤外線を当てる理学療法などもある。

 上記の手段は、軽度〜中等度の顎関節症の治療法であり、ほとんど口が開かないという重度の場合はまた一歩すすんだ治療法を選択することとなる。
2002/05/24 (金)

進行すると
 顎関節症の進行を放置しておくとどうなるか?・・・

 関節円板と呼ばれるクッションに損傷が起こる場合がある。
 これに穴が開くと、関節の骨同士が接することとなり、口をちょっとでも動かそうものなら激痛があるはずである。

 また関節円板と骨が癒着してしまうこともあるらしい。
 こうなると、下あごを動かすことが困難になる。

 このように中等度〜重度になると、関節の部分に注射をしたり、内視鏡を入れて手術をしたりしなければならない。

 まあ、そこまで進行することはめったにないだろうが・・・

 ただ、虫歯や歯周疾患などといった疾病が減ってくると、僕は顎関節にかかる負担というものは増してくるのではないかと推察している。
 どこかに「ストレス」がかかるはずであるから・・・
2002/05/27 (月)

そうそう
 僕は別段、特別に「顎関節症」に精通しているわけではない。
 顎の関節に何らかの疾患がある患者さんの全ての症状を取る自信もさらさらない。

 だから、勘違いをしないでいただきたい。僕に診てもらえば、長年の顎関節症から開放されると思っては欲しくないのである。

 今月記してきたことは、あくまで僕が考える「顎関節症の一般的な事項」なのである。

 僕も、十数年前、大学で「学生」としていろいろ教わったことが、その後どんどん変化してきて、それについて行けていることもあるし、ついて行けてないだろうなぁという点もある。

 ただ、基本的なことは共通である。枝葉末梢でそれが曲解されていることも、結構ある。基本に立ち返ってみると、な〜んだ!そういうことか!と一辺にパ〜っと目の前に解答が広がることもある。

 昨年の今ごろから半年以上、道東の方から患者さんが通ってきていた。
 顎関節に違和感を訴えていた。原因と思われるブリッジを外し、仮歯に置き換え、他の部分の噛み合わせもちょこちょこ治しているうちに、顎関節の症状は徐々に消退していった。

 今日いらした患者さん。
 右下の大臼歯の冠が外れた途端、左の顎関節に異常が出たとのこと。

 どちらも確かに「噛み合わせの異常」が顎関節に影響を及ぼすと思われても仕方ない転機をたどっている。
 でもでも、原因はストレスである。
 普段のストレスに噛み合わせのストレスがプラスされて発症したのに他ならないのである。
2002/05/28 (火)

症状があったら
 顎関節と噛み合わせに「相互関係」はあまりないと書いてはきたが、全然ないかと言うとそうでもないことは昨日述べたとおりである。

 つまり、噛み合わせの異常がストレスになりうるということである。

 顎関節症と思われる症状をお持ちの方もいらっしゃると思う。
 どうすればよいのか?

 まず、口を開けることはできるが、開け閉めの時に顎関節がカクっと鳴ったり痛みがある場合・・・これは初期、あるいは軽度の症状である。
 こめかみ周辺の側頭筋や顎の筋肉(咬筋)が痛い、あるいはだるいのも初期症状である。

 この場合は、まず、最近ストレスがないかどうか、思い浮かべてみて欲しい。
 同時に肩凝りや頭痛も併発していないだろうか?

 ストレスが思い当たれば、ストレスを回避する、ないしはストレスを発散するような手段を講じてみて欲しい。

 もし、それでも数週間症状が続くようなら、あまり長期間放置しない方がよい。

 歯医者さんに電話をかけて、「顎関節症の治療をしているか?」を問い合わせてみるのが一番いいだろう。

 ここで、自信を持った声で「まずは見せて下さい!」と言われたら、受診してみるといい。「いや〜ちょっと」とか自信なさそうに口ごもるようなら、別の歯医者を当たった方がよいだろう。

 でも、やはり一番の解決法は「ストレスの元」を探し出して、ストレスに向き合うことだと思う・・・
2002/05/30 (水)

そして・・・
 さんざん書いてきたが、顎関節症は局所だけの問題ではない。

 精神的な問題もあるし、全身の筋肉の問題もある。
 また噛み合わせも全く関係ないわけではない。

 そういうトータルな視点で患者さんを診ることのできる歯医者しか、ちゃんとした治療ができないであろう・・・

 胸に手を当てて自分はどうかと振り返る・・・

 「どんな顎関節症でも治します」な〜んて大それたことは口にできない。
 
 日々、患者さんを診させていただきながら、まだまだ勉強していかなければならないと思っている・・・
顎関節の構造  もっと判りやすく知りたい方はこちらをご覧下さい。
 ただし・・・横文字ですが〜